前立腺肥大症の治療薬一覧|泌尿器科専門医の解説付き

「前立腺肥大症の薬を飲み続けているけどいまいち効果が・・・」

前立腺肥大症の治療薬は種類が多く、自分に合った薬を見つけるのは難しいですよね。

そこで今回は、前立腺肥大症で処方される治療薬の一覧から、種類ごとの特徴や副作用についてご紹介します。

さらに記事の中では、前立腺肥大症が薬で治るのか、神楽岡泌尿器科院長 渋谷先生の解説動画もあるので、治療にまつわるお悩みや不安の解消につながれば幸いです。

【監修者】神楽岡泌尿器科 院長「渋谷 秋彦」

札幌医科大学卒業後、大手病院勤務を経て2003年に「神楽岡泌尿器科」を開業。前立腺肥大の手術「HoLEP」を1,000例以上行った実績があり、日帰り手術を実現している国内有数の医師。出版「気持ちいいオシッコのすすめ」など

前立腺肥大症で処方される治療薬一覧

前立腺肥大症の初期段階や軽度な症状の場合には、薬物治療が選択されます。

処方される主な治療薬の種類は以下の通りです。

前立腺肥大症で処方される治療薬
  • α1受容体遮断薬(α1ブロッカー)
  • 5α還元酵素阻害薬
  • PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬
  • 抗アンドロゲン薬(抗男性ホルモン薬)
  • 抗コリン薬
  • β3作動薬
  • 植物製剤
  • 漢方薬

ここでは、それぞれの薬剤の特徴と副作用や注意点について解説します。

※薬物治療における治療薬は、泌尿器科専門医の指示に従い、症状に合わせた適切な方法で服用してください。

α1受容体遮断薬(α1ブロッカー)

どんなお薬?

前立腺と尿道の筋肉の緊張をゆるめて、尿を出しやすくするお薬です。

【代表的な治療薬】
  • ハルナール(タムスロシン)
  • ユリーフ(シロドシン)
  • フリバス(ナフトピジル)

薬の効果と作用機序・・・

α1受容体遮断薬(α1ブロッカー)は、前立腺肥大による排尿障害の改善において第一に推奨される治療薬です。これは交感神経のα1受容体を遮断し尿道の緊張を和らげることで、尿の流れを促進させます。 

副作用と注意点・・・

α1受容体遮断薬は血管拡張により血圧低下を引き起こす可能性がありますが、ハルナールやユリーフ、フリバスは、前立腺や尿道のα1受容体に高い選択性を持つため、直接的なめまいや立ちくらみの副作用は少ないとされています。ただしα1受容体遮断薬の中でも、ユリーフは射精障害を起こす頻度が高いです。

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5α還元酵素阻害薬

どんなお薬?

前立腺肥大症の発症と進行に関わっている男性ホルモンの作用を減らして、肥大した前立腺を小さくするお薬です。(性機能系に与える副作用は少ないといわれています)

【代表的な治療薬】
  • アボルブ(デュタステリド)

薬の効果と作用機序・・・

5α還元酵素には男性ホルモンの一種であるテストステロンを、より強力な作用を持つジヒドロテストステロンに変換する役割があります。アボルブはこの酵素の働きを阻害し、男性ホルモンの作用を弱めて前立腺を小さくする効果が期待されます。

副作用と注意点・・・

5α還元酵素阻害薬はテストステロン値の低下は比較的少ないことが報告されており、性機能系に与える副作用は少ないといわれていますが、脳の性中枢への作用もあるため、性欲の低下や男性機能の低下を起こす可能性もあります。また、アボルブは前立腺がんの検査の指標であるPSA値も低くするため、前立腺がんの症状を自覚しにくくなることがあります。さらに、皮膚吸収のリスクもあり、妊婦や子どもが薬に触れると成長に異常を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

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PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬

どんなお薬?

膀胱、前立腺、尿道の血管や筋肉の収縮をゆるめ、血行を改善することにより尿の出をスムーズにするお薬です。 勃起を助ける作用から、ED(勃起不全)にも適用します。

【代表的な治療薬】
  • ザルティア(タダラフィル)

薬の効果と作用機序・・・

PDE5(ホスホジエステラーゼ5)とは、前立腺や膀胱、尿道に多く存在して、血管や筋肉を収縮させる働きのある酵素です。ザルティアはこの酵素を阻害して血管拡張や筋肉緩和を促し、排尿障害を改善します。また、タダラフィル、ザルティアの主成分はED(勃起不全)治療薬としても使用されています。

副作用と注意点・・・

血管拡張によりほてりや動悸、一時的な血圧低下が起こる可能性があり、消化不良や頭痛、筋肉痛、背部痛などが一般的な副作用です。また、陰茎内の血流促進により持続勃起が発生する可能性があり、4時間以上継続した場合は迅速な医師の診察が必要となります。

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抗アンドロゲン薬(抗男性ホルモン薬)

どんなお薬?

男性ホルモンの作用を抑えて、肥大した前立腺を小さくするお薬です。

【代表的な治療薬】
  • プロスタール(酢酸クロルマジノン) 

薬の効果と作用機序・・・

抗アンドロゲン薬は、精巣でのテストステロン(男性ホルモン)生成を抑制し、血中のテストステロンが前立腺に取り込まれるのを阻害します。これにより男性ホルモンの影響が弱まり、前立腺肥大が緩和され排尿障害の改善へとつながります。

副作用と注意点・・・

抗アンドロゲン薬は、血液中のテストステロン(男性ホルモン)を低下させ、勃起障害や性欲減退の副作用が生じることがあります。また、PSA値の低下により前立腺がんの検出が遅れる可能性があるため注意が必要です。

抗コリン薬

どんなお薬?

膀胱の筋肉の緊張をゆるめて、前立腺肥大症の主な症状の頻尿を抑えるお薬です。

【代表的な治療薬】
  • ソリフェナシン(ベシケア)
  • フェソテロジン(トビエース)
  • イミダフェナシン(ウリトス)
  • プロピベリン(BUP4)

薬の効果と作用機序・・・

膀胱の収縮には神経伝達物質のアセチルコリンが関与しており、アセチルコリンがムスカリン受容体というものに結合することで膀胱が収縮します。抗コリン薬は、その神経伝達をブロックし膀胱の過剰な収縮を抑えることで、頻尿の改善を図る効果があります。

副作用と注意点・・・

膀胱の収縮力が弱まりすぎると、尿の出方に影響します。前立腺肥大症により元々尿の出方が悪いと、抗コリン薬の使用で更に悪化し、尿が出なくなる可能性にもつながります。また、抗コリン作用により副交感神経の働きが妨げられると、消化液の分泌が抑制され腸の動きが悪くなるため、便秘を招く場合もあります。

β3作動薬

どんなお薬?

膀胱を広げることで、尿を蓄えやすくし過活動膀胱による尿意の切迫感や頻尿などを改善するお薬です。

【代表的な治療薬】
  • ベニタス(ミラベグロン)
  • ベオーパ(ビベグロン)

薬の効果と作用機序・・・

膀胱の筋肉(膀胱平滑筋)における交感神経のβ3受容体が刺激を受け、膀胱が広がることで尿をより蓄えることができます。β3作動薬は、抗コリン薬で問題となる口内乾燥や便秘の副作用が少ないとされている薬剤です。

副作用と注意点・・・

不整脈などの心血管系の疾患をもつ患者の方は、服用に注意が必要です。頻度は稀とされていますが、本剤の投与により脈が乱れるなどの症状があらわれることが考えられるため、服用の際は専門医に相談のもと慎重に投与しましょう。

植物製剤

どんなお薬?

前立腺の炎症をおさえたり、前立腺肥大症の症状を和らげるお薬です。

【代表的な治療薬】
  • エビプロスタット
  • セルニルトン

薬の効果と作用機序・・・

α1受容体遮断薬(α1ブロッカー)と一緒に使用されることも多く、前立腺の炎症を抑える場合や、症状の緩和に使用されます。

副作用と注意点・・・

植物製剤は効果が穏やかである分、副作用も少ないです。

漢方薬

どんなお薬?

前立腺の炎症をおさえたり、前立腺肥大症の症状を和らげるお薬です。

【代表的な治療薬】
  • 八味地黄丸
  • 牛車腎気丸

薬の効果と作用機序・・・

前立腺肥大による症状の緩和に使用されます。漢方薬は、症状と個人の体質に合ったものを選ぶことが重要です。

副作用と注意点・・・

漢方薬は、体質に合っていれば副作用が起こりにくいと言われていますが、全く副作用がないというわけではありません。他の薬との併用を希望する場合は、専門医とよく相談するようにしましょう。

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前立腺肥大症の方に注意が必要な薬一覧

以下に、前立腺肥大症の方が、服用に注意が必要となる薬を一覧にまとめました。

市販の風邪薬や乗り物酔いの薬、胃薬にも含まれているものがあるため、服用の際は、主治医の指示に従い、薬品名や成分表示をご確認の上ご留意ください。

分類薬品名
精神・神経用剤:抗うつ薬(三環系)トリプタノール、アナフラニール
精神・神経用剤:抗うつ薬(四環系)ルジオミール
精神・神経用剤:抗うつ薬(SNRI)トレドミン(交感神経刺激)
精神・神経用剤:抗パーキンソン薬パーキン、コリンホール
循環器官用薬:抗不整脈薬リスモダン、シベノール、ノルペース
循環器官用薬:低血圧治療薬リズミック(交感神経刺激)
感冒薬PL顆粒
鎮咳薬フスコデ、アストフィリン
アレルギー用剤ポララミン、ペリアクチン、ゼスラン、セレスタミン
鎮暈薬トラベルミン
鎮けい薬ブスコパン、トランコロン、ロートエキス他
排尿障害治療薬バップフォー、デトルシトール、ベシケア

前立腺肥大症の薬の副作用に関するQ&A

Q:タダラフィルを服用中、射精遅延になりましたが副作用でしょうか?

タダラフィルは骨盤内の血行を良くする作用があり、勃起不全や排尿障害の改善に効果があります。また、ペニスの血管に血液を多く引き込む作用があるため、勃起の強度が上がるのも効果の一つです。

勃起の強度が強くなるとオーガズムにいくまでの感覚が鈍くなり、射精までの時間が長くなることがあるため、副作用ということであれば、薬理作用として射精遅延が起こることも当然あります。

もし早漏の方が、射精の間隔が伸びたということであれば、薬の効果によって感覚が鈍くなり、射精までの時間が長く持つようになったとプラスに捉えることもできます。
渋谷先生
渋谷先生

Q:ユリーフ錠とアボルブカプセルを服用中、身体に湿疹が出たのですが副作用でしょうか?

お薬で湿疹が出ることを薬疹と言いますが、これはユリーフ錠やアボルブカプセルに限らず、他のお薬でも起こり得ます。

湿疹は、ユリーフ錠とアボルブカプセルのどちらかの副作用、あるいは両方の相互作用によって起こっている可能性がありますが、薬の作用の一つとして起こり得ることで、必ずしも危険な副作用というわけではありません。

また、ユリーフ錠とアボルブカプセルは、どちらも男性機能に影響を与える可能性がありますが、これは薬の作用によるもので、副作用とは少し異なります。
渋谷先生
渋谷先生

その他、前立腺肥大症の薬の副作用に関する疑問については、下記の動画リンク先にて、当院「神楽岡泌尿器科」渋谷院長が詳しく解説しております。

前立腺肥大症の薬による副作用について泌尿器科専門医が解説

医師の見解!そもそも薬で前立腺肥大症は治るのか

残念ながら薬で100%元通りになるということはありません。市販の健康食品や漢方も利用されますが、これらは症状を軽減させる補完的な役割があり、根本的な治療にはなりません。

ですが、頻尿や不快感などの症状は治ります。医師が処方する薬は効果が強く、医学的根拠に基づいているため、症状の治療において有効に働く可能性が高いです。

また、前立腺や膀胱に負担がかかっている期間が長い場合は、リハビリと治療期間も長く必要になります。その場合は、治るまでに時間がかかるものだと思って治療を進めていくことが大切です。
渋谷先生
渋谷先生

前立腺肥大症の薬に関する解説はこちらの動画から

まとめ

今回は前立腺肥大症の治療薬についてご紹介しました。処方される主な治療薬の種類は以下の通りです。

前立腺肥大症で処方される治療薬

  • α1受容体遮断薬(α1ブロッカー)
  • 5α還元酵素阻害薬
  • PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬
  • 抗アンドロゲン薬(抗男性ホルモン薬)
  • 抗コリン薬
  • β3作動薬
  • 植物製剤
  • 漢方薬

前立腺肥大症の初期段階や症状が軽度な場合は薬物治療が一般的ですが、症状が重症化した場合には手術が必要になります。

神楽岡泌尿器科では、患者さんの身体的、時間的制約を少なくするために前立腺肥大症の日帰り手術が可能です。

当院で導入している「​日帰り​ホーレップ(HoLEP)手術」は、出血や再発のリスクがほとんどなく、手術後の安静、苦痛も少なく済ませることができます。

薬を飲み続けてもなかなか症状が改善されなくお困りの方は、院長の渋谷先生へのメール相談も受け付けているのでお気軽にご相談ください。

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