前立腺肥大症の症状に悩まされ、なかなか改善されない方は、手術を検討することも一つの選択肢です。
しかし、手術には当然リスクがつきもの。心身の不安を取り除くためにもリスクを事前に把握しておくことは非常に大切なことです。
現在は従来の手術に比べ、出血や患部へのダメージが軽減された治療法も増えています。
この記事では、前立腺肥大症の手術リスクについて、手術の種類別・年齢別に分けて解説します。
記事の最後には、実際に神楽岡泌尿器科で行っている前立腺肥大症の「日帰り手術」についても紹介しているので、手術をご検討されている方のご参考になれば幸いです。
種類別|前立腺肥大症の手術リスク
前立腺肥大症の主流となる手術は以下の3種類です。
- TURP(経尿道的前立腺切除術)
- HoLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術)
- WAVE(前立腺肥大水蒸気治療)
ここでは、それぞれの手術リスクについてみていきましょう。
TURP(経尿道的前立腺切除術)
TURP(Transurethral Resection of the Prostate)は前立腺肥大症の手術であり、経尿道的に前立腺組織を摘出する方法です。この手術は効果的な治療法である一方で、特定のリスクや合併症が存在します。
まず、TURPの主なリスクの一つは出血です。手術中や手術後に出血が発生する可能性があり、これは病気の進行具合や患者の個別の状態によって異なります。手術後の出血が過度な場合、再手術が必要となることもあります。
また、尿道狭窄や尿失禁など、尿道に関する合併症も考えられます。内視鏡手術の操作により、尿道が狭くなることがあり、尿の通り道に障害が生じる可能性があります。また、手術が原因で尿失禁が発生することもありますが、これは一時的なものである場合が多いです。
さらに、感染症もTURPのリスクとして挙げられます。手術後の創傷の治癒過程において、細菌が尿道や膀胱に侵入し、感染症を引き起こす可能性もあり、この場合は抗生物質などの治療が必要となります。
HoLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術)
ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)はホルミウムレーザーを用いて前立腺組織をくり抜く新たな手術になります。手術の際にはいくつかのリスクが存在しますが、その多くは従来の手術法と比較して低減されているとされています。
まず、HoLEPの主な利点は、肥大線種をくり抜いて取り切ることと、出血を少なくできることです。ホルミウムレーザーは血管を同時に凝固させるため、手術中および手術後の出血リスクが低減します。これにより、患者の負担を軽減し、追加の処置が必要ないケースが増えるようにもつながります。
また、尿道や周辺組織に対するダメージも少なく、尿失禁や尿道狭窄のリスクが低いのも特徴です。従来の手術法では尿道への影響が大きかったため、この点においてHoLEPは優れていると言えます。手術後の回復も速やかで、患者は比較的早い段階で通常の生活に戻ることが期待できます。
ただし、HoLEPにも特有の合併症が存在します。一時的な排尿障害やまれに性的機能に影響を及ぼすことも報告されています。これらのリスクは患者の個別の状態により異なり、事前の詳細な診断や医師との相談が重要です。
WAVE(前立腺肥大水蒸気治療)
WAVE(前立腺肥大水蒸気治療)は水蒸気を使用して前立腺組織を収縮させる新たな治療手法です。この手術にはいくつかのリスクが伴いますが、一般的には低侵襲性であるとされています。
まず、WAVEの主な利点は処置時間の短いことと、出血の少なさです。手術中には従来の手術法と比較して出血や、術中の痛みが極めて少ないため、患者は術後の回復が早く、負担が軽減されることが期待されます。
また、尿道や周辺組織に対するダメージも最小限に抑えられるとされています。従来の手術法では尿道への影響が懸念されましたが、WAVEでは水蒸気の力を利用するため、尿道や周辺組織に対する優れた安全性が期待されます。
一般的な手術に伴うリスクも考慮されますが、WAVEは感染症の発生リスクが低いとされており、性的機能や排尿に関する合併症の発生も比較的少ないとされています。
年齢別|前立腺肥大症の手術リスク
続いて、年齢別の前立腺肥大の手術のリスクについてみていきましょう。
ここでは、前立腺肥大の症状が現れやすくなる50代〜70代と、手術を受ける際に抑えるべき注意点のある80代以上に分けて説明します。
50代〜70代
感染症のリスク・・・
前立腺の術後は尿道の炎症浮腫が起こるため、感染症リスクが伴います。発熱や排尿痛などの症状が出る場合は、抗菌薬治療が必要となりますが、ほとんど外来的に対応できます。尿流を保つための飲水指導や排尿指導が必要です。
出血のリスク・・・
前立腺周りは血流が豊富で、出血は必発です。しかし、現在行われている前立腺肥大の手術では、出血を軽減することができ、輸血などは行うことはありません。
痛みが伴うリスク・・・
術後の痛みは避けられず、尿道カテーテルが原因で尿道先端や会陰部が痛むことがあります。痛みの管理にも適切な対処が必要で、症状に合わせた痛み止めが処方されます。
尿道狭窄のリスク・・・
手術による尿道の炎症が原因で尿道の幅が狭くなる「尿道狭窄」を引き起こす可能性があります。尿路の変化が現れた場合は、担当医への早めの相談が必要です。
腸閉塞、便秘のリスク・・・
手術後、長時間ベットにいる時間が長くなると腸の動きが悪化し、便秘が起こりやすくなる場合もあります。その際は歩行や食事への工夫が必要となります。
尿漏れ(尿失禁)のリスク・・・
手術前から尿を止める筋肉の働きが弱っていると、手術で前立腺による閉塞を取り除いた後に、逆に尿を止めにくくなり尿失禁のリスクが増加します。骨盤底筋体操などリハビリによる改善が効果的です。
射精障害を伴うリスク・・・
前立腺は精液の一部を生成し、精子を運ぶ精管は前立腺を通って尿道につながっています。手術方法によっては、精液量が少なくなったり逆行性射精により、精液が出なくなる可能性があります。ただし、性欲、勃起機能に影響を与えることはありません。
勃起障害・勃起不全(ED)のリスク・・・
前立腺の周りには、勃起に関わる神経が網のように張り付いています。手術の影響でそれらの神経系にダメージが生じると、勃起障害・勃起不全(ED)を生じることがありますが、最近の低侵襲の手術ではほとんど見られません。これには内服の治療薬を使っての治療をする場合があります。
80代以上〜
80歳以上であっても心不全や呼吸不全などの重篤な合併症、出血傾向など、術中術後に高い確率で生命の危機が予測される疾患がなければ手術は可能とされています。
ただし、上記の50代〜70代の手術のリスクに加え、高齢者の前立腺肥大症の手術は身体的にも負担がかかるため、以下の点に注意が必要です。
- 高齢になると心臓や脳など併存疾患をもつ症例が多い為、出血が少ないことが前提。
- 他の疾患で抗凝固薬を内服している場合も多く、できれば内服を中止せず行える手術が望ましい。
- 長期入院は認知機能の低下などにつながるため、尿道カテーテル留置期間や入院期間が短いことも必要。
- 患者負担をできるだけ減らすために手術時間もできるだけ短くする必要がある。
これらのポイントを押さえた上で、日頃の健康状態をもとに、手術により受けるメリットとリスクを十分に考慮して判断しましょう。
高齢者の前立腺肥大症の治療に関する解説はこちらの動画から
手術リスクを軽減できる!日帰り前立腺肥大症手術 Holep
神楽岡泌尿器科では「日帰りHoLEP(ホーレップ)手術」を採用し、術後夕方までの経過観察で安全を確認できたら帰宅していただくという形を取っております。
HoLEP(ホーレップ)手術は、前立腺の外側のみにレーザーを当て、全体をくり抜くため従来の手術よりも出血や合併症のリスクが比較的低い手術です。そのため、患者様の状況によっては日帰り手術が可能で、負担が少なくて済みます。
入院との違いとしては、手術当日は尿道カテーテルを入れた状態で帰宅していただき、翌日に抜去、そこから入浴可能と、仕事への復帰が早い点です。デスクワークであれば次の日から通常の勤務が可能となります。
日帰り手術ができることで、患者様も自分の生活リズムを保ったまま、生活面でのストレスを少なく術後を過ごしていただけるため、心理的にもかなり楽になります。
また、通常入院となると滞在期間の手術以外の費用も発生しますが、日帰りは手術にかかる費用だけなので、経済的にもメリットが大きいことも特徴です。
さらに術後の不安を少しでも軽減、身体的なトラブルを回避するために、神楽岡泌尿器科では、日帰り手術を受けられた患者様へ、24時間の電話サポートを行っています。
術後にカテーテルが抜けてしまった、痛みがかなり強いなどトラブルがあった場合は、神楽岡泌尿器科の番号までお電話ください。院長の判断により、適切な指示及び必要があれば患者様の家に訪問し診療を行います。
まとめ
今回は、前立腺肥大症の手術リスクについて、手術の種類別・年齢別に分けて解説しました。
手術のリスクを事前に把握しておくことは、心身の不安を取り除くためにも非常に大切なことです。ただし、専門的なところまでは自分で調べるのにも限界があります。
前立腺肥大症の手術に関する情報や、症状にお悩みの方は院長の渋谷先生へのメール相談も受け付けていますので、お気軽にご相談ください。
【監修者】神楽岡泌尿器科 院長「渋谷 秋彦」
札幌医科大学卒業後、大手病院勤務を経て2003年に「神楽岡泌尿器科」を開業。前立腺肥大の手術「HoLEP」を1,000例以上行った実績があり、日帰り手術を実現している国内有数の医師。出版「気持ちいいオシッコのすすめ」など