前立腺肥大症は、年齢を重ねるごとにその割合が高くなっていく男性に多い病気です。
高齢者は体力的にも心配でほんとに治療を受けても大丈夫なのか。そんな不安をお持ちではないでしょうか。
80歳以上であっても重篤な合併症、術中術後に高い確率で生命の危機が予測される疾患がなければ手術は可能です。
現在は従来の手術に比べ、出血も少なく体に優しい手術もあります。
そこで今回は、前立腺肥大症の治療に詳しい神楽岡泌尿器科が、高齢者の前立腺肥大症の治療の進め方について解説します。
抱えている症状に適した治療方法を見つけ、安心して治療に望むことができれば幸いです。
本記事の最後には、当院の院長である渋谷先生の解説動画もあるのでぜひご覧ください!
80歳以上の高齢者の場合の前立腺肥大症の治療
前立腺肥大症の症状は大きく3つに分けることができます。
- 排尿症状:尿が出にくい
- 排尿後症状:尿が出きらない
- 蓄尿症状:尿がためられない
なかでも、80歳以上の高齢者の主な症状としては「頻尿」が最も多く、続いて「閉尿(尿が出ない)」が大きな割合を占めています。
前立腺肥大症の治療には、薬物療法と手術治療の2つがあり、患者ごとの症状の段階に合わせて選択されます。
薬物治療
前立腺肥大症の初期段階や軽度な症状の場合には、薬物治療が選択されることがあります。
主な薬剤としては以下の通りです。
5α還元酵素阻害薬:前立腺肥大症の発症と進行に関わっている男性ホルモンを減らして、肥大した前立腺を小さくするお薬です。(性機能系に与える副作用は少ないといわれています)
α1受容体遮断薬(α1ブロッカー):「前立腺と尿道の筋肉の緊張」をゆるめて、尿を出しやすくするお薬です。
抗男性ホルモン薬:男性ホルモンの作用を抑えて、肥大した前立腺を小さくするお薬です。
漢方薬植物エキス製剤など:前立腺の炎症をおさえたりして、前立腺肥大症の症状を和らげるお薬です。
抗コリン薬:「膀胱の筋肉の緊張」をゆるめて、頻尿を抑えるお薬です。
手術療法
重度な前立腺肥大や合併症のある場合、また薬物治療によっても改善が乏しい場合には、手術療法が検討されます。
以下に代表的な手術療法を紹介します。
経尿道的前立腺切除術(TURP):内視鏡を使用して前立腺組織を削り取る手術。前立腺内部の圧迫が緩和され、尿の通りを改善します。
経尿道的ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP):尿道から内視鏡を挿入し、肥大した前立腺の腺腫をレーザーを使用して被膜から剥離して核出する手術。従来の経尿道的切除術(TURP)と比べ、大きい腺腫でも確実に核出することが可能であり、出血も少なく体に優しい手術です。
グリーンライトレーザー手術(PVP):グリーンライトレーザー手術は、特殊なレーザーを使用して前立腺組織を蒸散させることにより尿の通りを改善します。
当院では、経尿道的ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)を採用し、患者の身体的・時間的な制約を少なくするため、日帰り手術を行っています。
HoLEPの日帰り手術についてはこちらで詳しく紹介しています。
治療方法は、患者の症状や健康状態によって異なります。治療計画については専門医との相談の上、自分に合った治療方法を選択しましょう。
80歳以上でも前立腺肥大症の手術は可能
80歳以上であっても心不全や呼吸不全などの重篤な合併症、出血傾向など、術中術後に高い確率で生命の危機が予測される疾患がなければ手術は可能です。
ただし、高齢者の前立腺肥大症の手術は身体的にも負担がかかるため、以下の点に注意が必要です。
- 高齢になると心臓や脳など併存疾患をもつ症例が多い為、出血が少ないことが前提。
- 他の疾患で抗凝固薬を内服している場合も多く、できれば内服を中止せず行える手術が望ましい。
- 長期入院は認知機能の低下などにつながるため、尿道カテーテル留置期間や入院期間が短いことも必要。
- 患者負担をできるだけ減らすために手術時間もできるだけ短くする必要がある。
これらのポイントを押さえた上で、日頃の健康状態をもとに、手術により受けるメリットとリスクを十分に考慮して判断しましょう。
家族の関わり方
父親または主人が前立腺肥大症になった場合、それを支える家族の関わり方はとても重要です。
まずは、前立腺肥大症の症状や治療について十分な理解を深めていきましょう。
そして、専門医から診断内容や治療計画を聞き、父親が治療に協力しやすいよう支援していくことが大切です。
しかし、症状や治療に対して不安を抱えるのは本人だけではありません。
家族の中でもなにか困ったことがある時には、身近に相談できる専門医がいると安心です。
神楽岡泌尿器科では、前立腺肥大症でお悩みの方の相談を随時受け付けているので、お困りの際はお気軽にご相談ください。
高齢者の前立腺肥大症に効果的な排尿トレーニング
前立腺肥大症には、気持ちいい排尿習慣、つまり「快感おしっこ」を身につけることが大切です。
快感おしっことは、いきまず自然に奔流させる気持ちのいいおしっこのことをいいます。
まずは、適当な水分補給でおしっこをしっかりと溜めましょう。目安としては、1日2リットルの水分摂取が理想です。
水分摂取が大事な理由は、腎臓機能を助け、尿管→膀胱→尿道と続く尿路の健康を保つためです。
そして、尿意を感じたとき漏れたら困るから早くおしっこに行くのではなく、少し止めておこうという意識をもって、無理なく少し我慢してみましょう。
この時お腹にグッと力を入れて我慢するのではなく、肛門と尿道をきゅっと閉めて普通に深呼吸しているのが正しい体勢です。
たっぷりとおしっこを溜めることができたら、あとは「いきまない」で一気に排泄します。
いきまないリラックスしたおしっこをすることが気持ちいい排尿習慣へとつながります。
まとめ
今回は高齢者の前立腺肥大症の治療の進め方について解説しました。
80歳以上であっても重篤な合併症、術中術後に高い確率で生命の危機が予測される疾患がなければ手術は可能です。
治療方法を選択する際は、ご自身の症状と手術により受けるメリットとリスクを十分に考慮して判断しましょう。
以下の動画では、院長の渋谷先生が高齢者の前立腺肥大症の治療の進め方について解説しています。
また、神楽岡泌尿器科では、前立腺肥大に関する悩みを解決する情報を多く公開しています。あなたの悩みに合うものがありましたら、ぜひ参考にしてください。
関連記事
【監修者】神楽岡泌尿器科 院長「渋谷 秋彦」
札幌医科大学卒業後、大手病院勤務を経て2003年に「神楽岡泌尿器科」を開業。前立腺肥大の手術「HoLEP」を1,000例以上行った実績があり、日帰り手術を実現している国内有数の医師。出版「気持ちいいオシッコのすすめ」など